運動器リハビリテーション料Ⅰ~Ⅲの施設基準とは?整形外科の経営におけるメリットと注意点
整形外科の経営で運動器リハビリテーションを実施するには、厚生労働省の施設基準を満たしたうえで必要な届出をする必要があります。診療報酬を算出する運動器リハビリテーション料には(Ⅰ)~(Ⅲ)の区分があり、区分によって施設基準も異なります。運動器リハビリテーションは診療報酬の向上や差別化につながる反面、介護保険との兼ね合いに注意が必要です。

 

本記事では、運動器リハビリテーション料の概要と区分ごとの施設基準、施設基準を取得するメリット、運動器リハビリテーションに必要な人材、実施における注意点について解説します。

 

運動器リハビリテーション料の区分とは?

 

運動器リハビリテーション料とは、運動器に疾患のある患者に提供するリハビリテーションを算定するものです。運動器リハビリテーション料には(Ⅰ)、(Ⅱ)、(Ⅲ)の区分があり、算定できる点数や施設基準の条件が異なります。

 

なお、個別の患者に運動器リハビリテーションを実施するには、厚生労働省が定める「施設基準」を満たし、管轄の厚生局への届出が必要です。

 

運動器リハビリテーション料(Ⅰ)~(Ⅲ)の施設基準

 

施設基準の概要を踏まえて、運動器リハビリテーション料における(Ⅰ)~(Ⅲ)の施設基準について解説します。

 

施設基準とは何か?

施設基準とは、厚生労働大臣が定める医療機関の機能や医療体制、安全面やサービス面などを評価する基準のことです。施設基準ごとに、対象の患者や算定の要件が定められています。

 

つまり、運動器リハビリテーション料の施設基準を満たし、厚生局に届け出ることで診療報酬を算定することが可能です。施設基準に関する届出書の提出は締め切りがあるため、算定に間に合うよう提出する必要があります。

 

運動器リハビリテーション料は(Ⅰ)~(Ⅲ)で区分され、以下のように1単位で算定できる点数が異なります。

 

  • 運動器リハビリテーション料(Ⅰ):185点
  • 運動器リハビリテーション料(Ⅱ):170点
  • 運動器リハビリテーション料(Ⅲ):85点

 

運動器リハビリテーションの実施単位数は、従事者1人につき1日18単位を標準とし、週108単位までとしています。ただし、1日24単位が上限となっています。

 

症状の発症、手術や急性憎悪または最初の診断日から、150日を限度として点数を算定します。ただし、厚生労働省大臣が認めた患者に関しては、150日を超えてリハビリテーションを行った場合は、1月13単位に限り、算定できるものとなっています。

 

運動器リハビリテーション料(Ⅰ)の施設基準

厚生労働省が定める、運動器リハビリテーション料(Ⅰ)の基本的な施設基準は次のとおりです。

 

運動器リハビリテーション料(Ⅰ)の施設基準
設備要件
  • 専用の機能訓練室が45㎡以上あること(病院は100㎡以上)
  • 治療、訓練に必要な器具等を有していること
    (各種測定用器具、血圧計、平行棒、姿勢矯正用鏡、歩行補助具など)
人員要件
  • 運動器リハビリテーションの経験を有する専任の常勤医師が1名以上勤務している
  • 専従の常勤理学療法士、または常勤作業療法士が計4名以上勤務している
その他要件
  • リハビリテーションに関する記録(医師の指示、実施時間、訓練内容、担当者等)は患者ごとに一元的に保管され、常に医療従事者により閲覧が可能であること
  • 定期的に担当の多職種が参加するカンファレンスが開催されていること

運動器リハビリテーション料(Ⅰ)の詳細な施設基準は、以下のページをご確認ください。

 

出典:

特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(令和4年3月4日保医発0304第3号)|厚生労働省

 

運動器リハビリテーション料(Ⅱ)の施設基準

厚生労働省が定める、運動器リハビリテーション料(Ⅱ)の基本的な施設基準は次のとおりです。

 

運動器リハビリテーション料(Ⅱ)の施設基準
設備要件
  • 専用の機能訓練室が45㎡以上あること(病院は100㎡以上)
  • 治療、訓練に必要な器具等を有していること
    (各種測定用器具、血圧計、平行棒、姿勢矯正用鏡、歩行補助具など)
人員要件
    • 運動器リハビリテーションの経験を有する専任の常勤医師が1名以上勤務している

以下の条件のいずれかを満たすこと

  • 専従の常勤理学療法士が2名以上勤務している
  • 専従の常勤作業療法士が2名以上勤務している
  • 専従の常勤理学療法士と専従の常勤作業療法士が合わせて2名以上勤務している
その他要件
  • リハビリテーションに関する記録(医師の指示、実施時間、訓練内容、担当者等)は患者ごとに一元的に保管され、常に医療従事者により閲覧が可能であること
  • 定期的に担当の多職種が参加するカンファレンスが開催されていること

 

運動器リハビリテーション料(Ⅱ)の詳細な施設基準は、以下のページをご確認ください。

 

出典:

特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(令和4年3月4日保医発0304第3号)|厚生労働省

 

運動器リハビリテーション料(Ⅲ)の施設基準

厚生労働省が定める、運動器リハビリテーション料(Ⅲ)の基本的な施設基準は次のとおりです。

 

運動器リハビリテーション料(Ⅲ)の施設基準
設備要件
  • 専用の機能訓練室が45㎡以上あること
  • 治療、訓練に必要な器具等を有していること
    (訓練マット、治療台、歩行補助具、砂嚢などの重錘、各種測定用器具など)
人員要件
  • 運動器リハビリテーションの経験を有する専任の常勤医師が1名以上勤務している
  • 専従の常勤理学療法士、または常勤作業療法士がいずれか1名以上勤務している
その他要件
  • リハビリテーションに関する記録(医師の指示、実施時間、訓練内容、担当者等)は患者ごとに一元的に保管され、常に医療従事者により閲覧が可能であること
  • 定期的に担当の多職種が参加するカンファレンスが開催されていること

 

運動器リハビリテーション料(Ⅲ)の詳細な施設基準は、以下のページをご確認ください。

 

出典:

特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(令和4年3月4日保医発0304第3号)|厚生労働省

 

【整形外科経営】運動器リハビリテーション料の施設基準を取得するメリット

 

【整形外科経営】運動器リハビリテーション料の施設基準を取得するメリット
 

整形外科を経営するうえで、必要な施設基準を満たし、運動リハビリテーションを提供するメリットとしては以下が挙げられます。

 

診療単価をアップさせることができる

そもそも運動器リハビリテーションとは、運動器に障害がある患者が日常生活で自立できるよう、運動療法や物理療法などを組み合わせた処置を提供するものです。

 

運動器リハビリテーション料は、個々の症例に応じて実施したときに診療報酬を算定します。つまり、施設基準を取得すると、患者への治療行為に加え、運動器リハビリテーション料を算定することで診療単価の向上につながるのです。

 

集患につながる

運動器リハビリテーションを認知する患者が増えており、整形外科を選ぶ一つの基準になりつつあります。物理療法のみを行う整形外科と比べ、運動器リハビリテーションを実施することで集患につながりやすい傾向にあります。

 

なお、運動器リハビリテーション料において、令和4年度の診療報酬改定で「糖尿病足病変」の患者も対象が拡大されました。これまで糖尿病足病変のケアは透析クリニックが基本でしたが、今後は整形外科の運動器リハビリテーションを利用する患者が増えることが期待されるでしょう。

 

治療技術の向上で差別化を図れる

リハビリテーションは疾患ごとに実施されていますが、運動器リハビリテーションは全体の半数を占めている状況です。特に、運動器リハビリテーション料(Ⅰ)を導入する整形外科は、平成25年から平成30年にわたって増加傾向にあります。

 


 

出典:

個別事項(その1)(リハビリテーション、医薬品の効率的かつ有効・安全な使用)「疾患別リハビリテーション料の概要(経年変化)」|厚生労働省

 

運動器リハビリテーションを提供できるのは整形外科だけであり、他の診療科を標榜する施設や整骨院等との差別化を図ることが可能です。

 

ただし、運動器リハビリテーションでさらに差別化を図るには、治療の技術を向上させる工夫が必要です。具体的には、理学療法士が勉強会や研修会などに参加し、治療技術を高めることなどが求められます。患者からの評判や信頼を得るため、コミュニケーション力を高めることも集患に必要な要素といえます。

 

運動器リハビリテーション料の施設基準に必要な人材とは?

 

運動器リハビリテーション料の施設基準に必要な人材とは?

 

運動器リハビリテーション料の施設基準となる、人材の種類と特徴について解説します。

 

理学療法士

理学療法士(PT)とは、立つや歩くといった動作能力の回復や維持、悪化の予防を目的に、理学療法に基づくリハビリテーションを提供する専門職のことです。理学療法士は、整形外科の運動器リハビリテーションに欠かせない人材です。

 

理学療法士は医師と連携しながら、痛みなどの原因を探り、根本的に治療するよう努めます。医学的、社会的な観点から患者の身体能力や生活環境を評価し、適切なリハビリテーションのプログラムを作成します。

 

整形外科にとって理学療法士は重要な存在であるため、理想とする理学療法士像を明確にして人材を採用することが求められます。

 

作業療法士

作業療法士(OT)とは、食事や入浴といった日常生活の作業に加え、就学や就業などの社会的な適応能力の改善や維持により、「その人らしい」生活を獲得するリハビリテーションを提供する専門職です。理学療法士は身体機能がメインで、作業療法士は精神的な面も援助する点が異なります。

 

運動器リハビリテーションにおいては、作業療法士は社会復帰に向けたリハビリテーションに取り組みます。パソコンやスマートフォンの操作、家事や裁縫、スポーツなど、細かい動作から大きな動作を行うのが特徴です。

 

運動器リハビリテーションセラピスト

運動器リハビリテーションセラピストとは、日本運動器科学会による民間資格のことです。理学療法士の不足を解消するために発足した資格であり、「みなしPT」とも呼ばれることもあります。

 

運動器リハビリテーションセラピスト資格を取得すると、医師や理学療法士のもとでリハビリテーションを提供できます。資格を取得するには、研修会の修了試験に合格し、実技プログラムを修了しなければなりません。また、勤務する医療機関における常勤指導医の指導下にある常勤勤務者である必要があり、常勤指導医は日本整形外科学会専門医もしくは日本専門医機構認定整形外科専門医であり、かつ日本運動器科学会員であることが条件となっています。

 

運動器リハビリテーションセラピストは誰でも取得できる資格ではなく、以下の免許を持つ方が対象です。

 

  • 看護師
  • 准看護師
  • あんまマッサージ指圧師
  • 柔道整復師

 

なお、運動器リハビリテーション(Ⅲ)の施設基準を満たすと、運動器リハビリテーションセラピストを理学療法士の代わりとして、点数を算定することが可能です。

 

運動器リハビリテーション料における注意点

 

運動器リハビリテーションを実施する際、以下のことに注意する必要があります。

 

介護保険のリハビリテーションと併用できない

運動器リハビリテーションは、医療保険の範囲内で実施することが基本です。

 

医療保険のリハビリテーションは日数に制限があるうえに、運動器の機能回復と生活の質の向上を目指すものです。一方、介護保険では、日常生活の自立を目指し、かつ生活の質の維持や向上を目的とします。

 

リハビリテーションの目的が異なるため、基本的に医療保険と介護保険は併用できません。そもそも介護保険を利用するには要支援や要介護の認定が必要で、医療保険ではなく介護保険の適用が優先されます。

 

介護保険の認定を受けている患者が多い場合は介護保険に移行

来院する患者の多くが65歳以上で介護保険の認定を受けている患者が多い場合は、介護保険のリハビリテーションに移行することも可能です。運動器リハビリテーション料の施設基準を取得すると、患者と通所リハビリテーションの利用者で同じ機能訓練室を共有できるためです。

 

ただし、機能訓練室の混在は、1時間以上2時間未満の通所リハビリテーションとの共有で利用者1人あたり3㎡の広さを確保するなど施設基準と人員基準を満たす必要があります。

 

なお、介護保険事業(介護通所リハビリテーション、介護予防通所リハビリテーション)は単価が決まっているため、利用者数が多いほど報酬がアップします。リハビリテーションの集患につなげる施策として、送迎の実施、地域のケアマネージャーとの連携が必要です。まずは自院の通院している患者のなかで看護保険に認定している方から介護保険のリハビリ(介護通所リハビリテーション、介護予防通所リハビリテーションへ移行する事をお勧めします。

 

将来を見据えて運動器リハビリテーションを実施する

運動器リハビリテーション料の区分により、必要な設備の内容が異なります。しかし、将来的にリハビリテーションを拡大する可能性を考慮するのであれば、あらかじめ(Ⅱ)に必要な設備を用意しておくとよいでしょう。

 

また、リハビリテーションは理学療法士などの人員が多いほど診療報酬が高くなる反面、人件費と報酬のバランスも考慮すべきです。リハビリテーションが必要な患者が増えてから、施設基準を上げたり、通所リハビリテーションを導入したり、徐々に手を広げることが大切です。

 

まとめ

運動器リハビリテーションを提供するには、(Ⅰ)~(Ⅲ)の区分でいずれかの施設基準を満たす必要があります。整形外科を経営する際、運動器リハビリテーション料による診療報酬の向上や集患などの効果が期待できます。ただし、施設基準は機能訓練室のスペースだけでなく、理学療法士などの人員基準を満たさなければなりません。また、理学療法士が退職しても施設基準が維持できるように自院の看護師にも運動器リハビリテーションセラピストの資格取得をしてもらう事をお勧めします。

 

なお、将来的な診療の拡大を考慮し、運動器リハビリテーション(Ⅱ)の施設基準を目指していただく事をお勧めします。

 

本記事に記載しております内容は、2024年2月時点の情報を元にしております。

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<監修者>
合同会社MASパートナーズ代表 原 聡彦(はら としひこ)
合同会社MASパートナーズ
代表 原 聡彦(はら としひこ)

 

プロフィール
合同会社MASパートナーズ代表。日本医業経営コンサルタント協会認定コンサルタント。

これまでクリニックの開業コンサルティング150件以上、クリニックの院外事務長などの経営サポートを250件以上など現場主義のサポートに従事。活動の成果を日経ヘルスケアなど専門雑誌での執筆、医師協同組合などの講演活動を展開中。