弾性(CV)ストッキングと
下肢静脈疾患・リンパ浮腫
目次
日常生活に潜む疾患
下肢の静脈疾患として、下肢静脈瘤や深部静脈血栓症、リンパ浮腫などが挙げられます。
注意して日常生活を送ることで予防できることもあります。疾患の原因や治療法、日常生活での注意点など、下肢の静脈疾患に関する情報を解説しています。
PDF版の資料もございますので、ぜひご活用ください。
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下肢静脈疾患およびリンパ浮腫と
弾性ストッキングについて監修:平井 正文 先生
(国家公務員共済組合連合会 東海病院 下肢静脈瘤・リンパ浮腫・血管センター長)※ご所属は作成当時のものとなります
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下肢静脈疾患および
リンパ浮腫について
静脈の病気は足に起こりやすいという特徴があります。それは、足は心臓から一番遠くにあり、足の血液は重力に逆らって心臓方向へと戻らなければならないために多くの負担がかかっているからです。
足の静脈には血液が逆流しないように弁がついています。この弁の働きにより筋肉が収縮し、血管を圧縮したときに、血液が心臓方向へだけ流れるようになっています。
足の静脈の病気(下肢静脈疾患)は主として2つの原因から起こります。1つは、弁が機能しなくなって血液が逆流してしまうこと(下肢静脈瘤)、もう1つは、足の静脈そのものが閉塞を起こすこと(深部静脈血栓症)です。いずれも血液が心臓方向へ流れにくくなり、血液が下肢にうっ滞します。足に流れた血液の90%は静脈血となって心臓にもどりますが、残りの10%はリンパ液となってリンパ管を通り心臓に戻ります。リンパ管にもリンパ液が逆流しないように弁がついています。静脈の血液と同じようにリンパ液が足に溜まってしまっても足が腫れてきます(リンパ浮腫)。
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下肢の静脈と弁の慟き
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下肢の静脈疾患
主な静脈の病気下肢静脈瘤
深部静脈血栓症主なリンパ管の病気リンバ浮腫
下肢静脈瘤
(かしじょうみゃくりゅう)
種々の原因で静脈の弁が悪くなったり、弁がしっかりとかみ合わなくなって、血液の逆流を防止できなくなったときに起こる病気です。血液が逆流し、足の下の方に血液が溜まり、静脈が太くなったり、蛇行したりします。症状が悪化すると痛みやむくみを伴います。また炎症を起こしたり、色素沈着などの合併症を引き起こす可能性もあります。
静脈瘤にかかりやすい傾向
女性に頻度が高く、特に妊娠してお腹が大きくなると下肢の血流が悪くなり、足に血液が溜まりやすくなるので発症率が高くなります。発症は遺伝的な要素もありますが、年齢が高くなると弁が壊れやすくなったり、血管が弱くなったりして静脈瘤が出来やすくなります。また立ち仕事が多い人の場合、足に血液が溜まりやすいため、発症率が高くなっています。静脈瘤は、小さい静脈瘤を含めると15歳以上の人の43%にみられ、大きい静脈瘤は14%の人にみられるという調査結果があり、とても頻度の高い病気といえます。
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大きな静脈瘤
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小さな静脈瘤①
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小さな静脈瘤②
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色素沈着
治療
静脈瘤の治療には、弾性ストッキングなどの圧迫療法、結紮術併用硬化療法、ストリッピング手術、高周波やレーザーを用いた血管内治療などがあります。病気の状態や程度、患者さんの希望を考慮して治療が選ばれます。
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圧迫療法
弾性包帯や弾性ストッキングを使って静脈血の還流を良くする方法。弾性ストッキングは足首から足のつけ根に向かって徐々に圧迫圧が弱くなるように作られています。
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レーザー·
高周波静脈焼灼術静脈を引き抜くかわりに、レーザーや高周波で静脈を焼いて潰してしまう方法です。
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硬化療法結紮術併用硬化療法
硬化療法では、静脈瘤に直接硬化剤という薬を注射し、その後外側から弾性包帯や弾性ストッキングを装着して圧迫し、静脈瘤を潰してくっつけます。大きな静脈瘤では、硬化療法に先立って結紮術をおこない、逆流を止めておきます。これが結紮術併用硬化療法です。
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治療前
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結紮術併用
硬化療法後
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ストリッピング手術(伏在静脈抜去術)
針金のような特殊器具(ストリッパー)を逆流を起こしている静脈の中に通し、静脈を引き抜く方法です。
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治療前
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ストリッピング後
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深部静脈血栓症
(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)
静脈の血流がうっ滞すると、血管内に血液の塊(血栓)ができやすくなります。下肢の深い部分にある静脈に血栓ができる症状を深部静脈血栓症といい、足に変色と腫脹が起こります。また深部静脈血栓症の後遺症として、足がだるくなったり、進行すると皮膚に色素沈着や湿疹、潰瘍が発生することがあります。
「エコノミークラス症候群」「旅行者血栓症」と呼ばれている病気も原因は同じで、飛行機の中などで長時間同じ姿勢で座ったまま足を動かさない状態が続くことで深部静脈に血栓ができ、席を立つなど足を動かしたときにその血栓が血流にのって肺動脈に流れつき詰まってしまう病気(肺塞栓症)です。
深部静脈血栓症にかかりやすい傾向
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手術中や手術後の長期間の臥床や、同じ姿勢での座りっぱなしなど、下肢を動かさない状態が続き、血流のうっ滞が起こりやすい場合にかかる病気です。また脱水などで、血液が凝固しやすくなっている場合にも深部静脈血栓症を引き起こすことがあります。他にも、カテーテル検査や外傷などが原因で静脈血管の壁に傷が付いてしまった場合にも発生しやすいといわれています。
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深部静脈血栓症(左足)
治療
深部静脈血栓症に対しては、病気の程度に応じて、血栓を手術で取り除いたり、薬で溶かす治療がおこなわれます。後遺症を残さないためにも、弾性ストッキングの着用が大切です。
リンパ浮腫(りんぱふしゅ)
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心臓から流れ出た血液は、動脈を通って体中の筋肉や細胞に栄養を供給し、余分な水分や老廃物を吸収しながら静脈から心臓に戻ります。この時、静脈やリンパ管の流れが滞り、細胞間に水分がたまるとむくみが起こります。心臓や肝臓など内臓の病気が原因で起こるむくみは、両足が同じようにむくみますが、静脈やリンパ管の病気が原因のむくみは、静脈の病気やリンパ管の病気がある側だけ起こります。リンパ浮腫は症状が進行すると皮膚が硬くなってきます。また、足だけでなく手や腕にも起こります。ときに蜂窩織炎(ほうかしきえん)といって、患肢が真赤に腫れ、39~40℃の高熱がでることもあります。
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リンパ浮腫(右足)
リンパ浮腫にかかりやすい傾向
リンパ浮腫は、生まれつきリンパ管の発育が悪かったり、乳癌や子宮癌などの手術や放射線治療で、リンパ管の流れがスムーズでなくなった場合に発生します。
治療
リンパ浮腫の主な治療法として、リンパ誘導マッサージ、弾性ストッキング(上肢では弾性スリーブ)や弾性包帯による圧迫療法、圧迫下での運動療法、スキンケアの4つの方法を組み合わせた「複合的理学療法」が行われています。また、蜂窩織炎をおこさないように、患肢のケガや虫さされ、やけどに気をつけましょう。水虫があればきちんと治すことも大切です。
下肢静脈疾患およびリンパ浮腫における日常生活での注意点
下肢静脈瘤、深部静脈血栓症、リンパ浮腫では、足にむくみが生じます。それゆえ、静脈還流障害やリンパ浮腫の症状を少しでも軽減させ進行を防ぐには、足に静脈血やリンパ液をうっ滞させない日常生活の過ごし方が非常に大切です。そのために次の点に注意してください。
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立ったままや椅子に座ったままで、
長時間過ごすことは避けましょう。長時間同じ姿勢をとるときは、途中で足踏みをしたり、つま先を上下に動かしたり、歩き回るなどして、ふくらはぎの筋肉を動かすことを心掛けましょう。こうした運動によって、血液やリンパ液のうっ滞を少なくすることが出来ます。
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上肢のリンパ浮腫の人は、
座布団などで腕を高くして休みましょう。 -
就寝時は足を高くしましょう。
足に溜まった血液やリンパ液を減らすには、足を心臓より高くすることが一番効果的。就寝時には足を15㎝程上げて寝ると良いでしょう。このとき膝のしたにも軽く枕を入れ、膝が少し曲がるような状態にしましょう。
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足を部分的に
強く締めつけないようにしましょう。局所的にゴムバンドやガードル、サポーター、包帯などで強く締めると、その下がうっ血して浮腫が悪化してしまうので注意しましょう。
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皮膚を傷つけないように注意し、
いつも足を清潔にしましょう。静脈還流障害が高度になると、些細な刺激でも炎症や潰瘍が起こり、リンパ浮腫では蜂窩織炎を起こします。その際、かゆいからといって患部を掻いて傷つけることは避けましょう。また、足を常に清潔に保つようにしましょう(患肢への鍼灸もお薦めできません。)
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弾性ストッキングを使用しましょう。
朝おきて、むくみの少ないうちから夕方まで、または就寝時まで、きちんと装着し続けることが大切です。(医師の指示があった場合は、就寝時も装着してください。)上肢のリンパ浮腫には弾性スリーブがあります。
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炎症を起こした場合は、安静に
するように
努めて炎症を鎮めましょう。炎症が見られる場合には、直ちに圧迫やマッサージを一旦中断しましょう。こうして患部を安静に保ち、医師に相談して早く炎症をおさめるように心掛けましょう。
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弾性ストッキングを履いて、
適度な運動を行いましょう。激しい運動はかえって静脈に負担をかけるため不向きですが、適度な運動は血行を良くし、溜まった血液やリンパ液を循環させることができます。運動をするときには弾性ストッキングを装着して行いましょう。
弾性ストッキングについて
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下肢静脈疾患やリンパ浮腫の治療に弾性ストッキングはなくてはならない大切なものです。しかし、正しく使用しないと充分な効果が得られません。医療で使われる弾性ストッキングは、足首の圧迫圧が一番強く、足の上部にいくにつれて段階的に圧迫圧が弱くなるように設計されています。これを「段階的圧迫法」と呼び、血液を心臓の方に戻しやすくするための工夫です。弾性ストッキングの仕様は、病気の程度や種類に合わせて選択する必要があるため、基本的には医師が決めることになります。
弾性ストッキングを用いた圧迫療法は、
静脈・リンパ還流の促進につながります。 -
弾性ストッキングを用いた圧迫療法は、
静脈・リンパ還流の促進につながります。
弾性ストッキングの種類
圧迫圧やサイズの基準は製品によって違いますので、医師の指導のもと、自分にあった圧迫圧とサイズを選択します。弾性ストッキングが足の形状と合わない場合は弾性包帯を使用します。
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股下タイプ
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膝下タイプ
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膝下ソックスタイプ
使用時の注意点
下肢静脈疾患・リンパ浮腫の日常ケアとして、弾性ストッキングを正しく使いましょう。
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たるみやしわができないように、均ーに履き上げてください。折り返しての装着はしないでください。局部的に強い圧がかかると、痛みや還流障害を悪化させることがありますので注意してくたさい。
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肌荒れした手や爪、鋭利なものに引っかけると、弾性ストッキングを傷つけるおそれがありますので注意してください。
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シリコンなどの滑り止めバンドが付いている場合は、長時間の着用によりかゆみ・かぶれを生じる場合があります。皮膚に合わない場合は、使用を中止してください。
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はさみで切るなどの加工、修理を行わないでください。
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医師からの指示がない限り、就寝時は装着しないでください。
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各部位の周径が変わった場合は、適切なサイズに変更してください。
使い方のポイント
充分な効果を得るために、弾性ストッキングの正しい使い方を理解しましょう。
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弾性ストッキングは医師の指示のもとに適切なものを選びましょう。
圧迫圧の強さや丈の長さには色々な種類があります。弾性ストッキングの適正は、病気の症状や程度によって異なります。そのため弾性ストッキングを選ぶ際は、医師のアドバイスに従うことをお勧めします。
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弾性ストッキングは履き続けることが大切。
圧迫圧が強いストッキングは装着しにくいと感じる場合があります。その場合は、まずいつも使っている普通のストッキングを装着し、その上から弾性ストッキングを履くと良いでしょう。また皮膚が弱い人も同様にすることで、かぶれ等を防ぐことが出来ます。
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違和感を感じたら使用は中止しましょう。
しびれや痛みを感じたら、圧迫により血行障害が発生・悪化している可能性がありますので、すぐに使用を中止してください。また弾性ストッキングでかぶれることがあります。かゆみやしびれ、痛みが出た場合は医師に相談しましょう。
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圧迫圧が弱くなったり、破損したら新しいものに替えましょう。
一般的に医療用の弾性ストッキングは90回洗濯しても圧迫圧は落ちないように設計されています(装着なしで洗濯だけの場合)。圧迫圧が弱くなると治療効果が得られませんので、使い方にもよりますが、1日おきに使用した場合で半年を目安にして新しいものに替えてください。また、伝線など破損した場合も同様です。
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製品にあった正しい洗濯方法を心がけましょう。
ストッキングの素材や合成比率によってある程度違いますので、それぞれの製品の説明書にしたがって洗濯することが大切です。
装着時のポイント
弾性ストッキングで「履きにくさ」や「脱ぎにくさ」を感じるのは、主にかかとの部分です。ストッキングをたぐませると、かかとを通すときに広げにくくなります。かかとの部分で固まりにならないよう、ストッキングをかかと部分まで裏返すと、脱着がスムーズに行えます。
かかと部分まで裏返した状態で爪先から滑り込ませるとスムーズに装着できます。
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手を上端部から足の部分まで入れる。
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ストッキングをかかととの目印部まで裏返す。
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ストッキングから、手をひきぬき、かかと部分をひろげ、足を入れる。
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上端部までたぐりよせる。
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履きにくい装着例
着通のストッキングや靴下を履くように弾性ストッキングをかかとのところでたわませると生地が伸びにくくなるため履きにくくなります。
- NG
ずり下げるのではなく弾性ストッキングを裏返すように脱いでいくと簡単に脱着できます。